夜10時を過ぎた先程、救急車の大きなサイレン音がして、
家の近くで止まった気配。
近所には、知り合いの高齢者もいることだし・・・、と
小雨の降る中を、外に出てみた。
老人らしき男性が、担架に乗せられているところだった。
我家は2車線の道路に面しており、
歩道の大部分はアーケードに覆われている。
向かいの窓から見ていたという近所の女性が、消防署員に事情を説明している。
「散歩途中らしい人が急にふらふらして、そこのベンチに座ろうとして
座り切れないで倒れたんです」
驚いたのは、大きな救急車の周りにいるのは、救急隊関係者以外は、
説明している女性と私だけなのだ。
誰もでてこない。明かりが灯っている窓もあるのに。
説明している女性と私は、近所とはいえ知り合いではなく、
顔もお互いよく知らない間柄だ。
少し前だったら、大勢の人が集まってきたのに。
人がいないのは、小雨のせいというよりは皆高齢になって
動きが鈍くなった、または周りへの関心が薄くなったためだ。
古い地方都市のこの周辺の人々も、すっかり変わったものだ。
私が東京から移ってきた約20年前、隣近所との濃厚な付き合い方、
物のやり取りの多さ、時間に関係ない頻繁な訪問など、
慣れない私は悩んだものだ。
やがて両親世代の人々もいなくなり、社会構造も変化した。
コロナによって、人間関係はますます疎遠になっている。
隣近所と付き合いが途切れているわけではないけれど、
個人個人の境界線は、よりはっきりしてきた。
さっぱりしていい気もするが、心暖かい交流は保ちたいと思う。
サイレンの音が遠ざかっていく。
倒れた方の搬送先が決まったのだろう。
救急車は多分、誰にも見送られずに去って行ったんだろう。
どうぞご無事で!